再生医療:脂肪幹細胞療法(ADSC)


動物の体には、さまざまな器官や臓器などに変化する(「分化する」といいます)細胞が存在します。
この細胞は幹細胞と呼ばれ、幹細胞療法とは、この細胞を体外で培養して体に戻すことで、失われた組織や損傷の再生を行う治療法です。
当院では皮下脂肪の中に含まれる脂肪幹細胞を培養して使用します。
皮下脂肪由来の脂肪幹細胞は、骨や軟骨、筋肉や心筋細胞、そして血管を形成する細胞に分化することが知られています。
幹細胞療法はこれらの分化する能力を利用することで、自分の細胞から必要な器官や臓器を「再生」させる治療法です。


脂肪幹細胞の特徴
iPS細胞やES細胞などは、全ての細胞に分化し得るため、がん化のリスクなども予想されていますが、
脂肪幹細胞は分化する組織がある程度決まっているため、がん化のリスクはほぼ無いとされています。
また脂肪幹細胞は、必要な部分、すなわち炎症・損傷を起こしている部分に勝手に集まっていく性質を持つため、静脈投与でも十分な効果があるとされています。
さらにこの幹細胞は、自身が損傷した細胞そのものに分化するだけでなく、
損傷部位で生き残った細胞に分裂する命令物質を出したり、
過剰な免疫反応や炎症を抑える化学物質を出したり、血管を新生させる化学物質を出す能力があり、これらのサイトカインの働きで損傷部位を修復していきます。


どんな病気に適しているか
・効果が高いというデータが多いもの
 骨折の癒合不全
 椎間板ヘルニア
 関節炎

・ある程度効果があるかもしれないもの
 自己免疫性疾患(アトピー性皮膚炎、自己免疫性溶血性貧血、特発性炎症性腸疾患、ドライアイ)
 糖尿病
 肝機能不全
 心筋梗塞
 腎炎 ほか

  治療の流れ
脂肪幹細胞は皮下脂肪に存在しています。イヌまたはネコの脂肪組織を少しだけ採取し、特殊な酵素液で分解して幹細胞を単離、特殊な容器で細胞を前培養します。
その後、本培養で細胞の数を増やしてから、細胞を集めて洗浄し、患部への直接の注射や点滴によって体内に投与します。
培養した脂肪幹細胞は3世代目までは十分な能力を有しているため、1回の脂肪採取で3回まで投与できますが、
4世代以降は大幅に能力が低下するため、再度脂肪組織の採取が必要となります。


①椎間板ヘルニアによる麻痺に対する治療
全身麻酔あるいは局所麻酔で皮下脂肪を採取

1週間培養(前培養)

2週目に90%の細胞を局所注射または静脈点滴(約5千万細胞)
残り10%を用いて次世代を培養

3週目に90%投与、残り10%を用いて次世代を培養

4週目に全細胞を投与

費用:15万円~

②骨折癒合不全に対する治療
全身麻酔あるいは局所麻酔で皮下脂肪を採取

2週間培養(前培養+本培養)

足場となる物質(人口骨、自己海綿骨、PRPゲル、徐放性ゼラチンビーズなど)とともに幹細胞を骨折部位に注入
同時にギプスや創外固定などダメージの少ない方法で骨折部位を安定化する手術を行う

費用:固定法により差があるが約15~30万円