犬アトピー性皮膚炎に対する新しい治療法:減感作療法


*当ページの内容は随時更新される予定です。

アトピー・アレルギーって?
生物には体内に入ってきた異物を敵として認識し、排除するしくみが備わっています。
このしくみを免疫、敵を抗原、抗原を攻撃する物質を抗体と呼びます。
おおざっぱに言うと、アレルギーとは花粉や牛肉など、本来そこまで攻撃しなくてもよい抗原に対して過剰に抗体が作られて、
身体に悪影響を及ぼす状態です。アトピーとは、アレルギーに加えて皮膚のバリア機能の低下を併発した状態です。
このように厳密には両者は違う病態ですが、対処・治療法がほぼ共通のため、以降アトピーと呼んで話を進めます。

今までの当院でのアトピー性皮膚炎の治療法
基本的に対症療法を実施し、高額になっても何とか完治させたい方には東京の皮膚科専門病院での減感作療法をご紹介してきました。
対症療法としては抗生物質と抗真菌薬を含んだシャンプーを中心に行い、他の薬剤や低アレルゲン療法食の併用で比較的良好に維持できている子も多くいらっしゃいます。
しかしやはりステロイドを手放せない子や、その結果重い副作用を起こしてしまう子がいるのも実情でした。
そして治療目標は「完治」ではなく「良好な状態の維持」が限界でした。

対症療法:いずれも症状を抑えたりやわらげるもので、完治する事は少ない
ステロイド、抗生物質、抗真菌薬、抗ヒスタミン剤、免疫抑制剤、インターフェロン、保湿剤、サプリメントほか
ステロイド:安価で免疫抑制作用が高いが、重大な副作用もあり得る。また生涯治療が必要になることが多い
抗生物質:弱った皮膚への細菌の感染を防ぐ。単体では効果が薄く、飲み薬では軽度の副作用が高頻度に出る
抗真菌薬:弱った皮膚へのカビの感染を防ぐ。長期使用での副作用が強め
抗ヒスタミン剤:痒みを抑えるが、単体での効果は低い
非ステロイド系免疫抑制剤:ステロイドのような副作用は少ないが高価
インターフェロン:免疫調節作用があるが、単体での効果は低く、高価
保湿剤、サプリメントなど:皮膚のバリア機能を増強するが一般に効果は低く、製品によって効果に大きな差がある

従来の減感作療法
人間の医学でも、アレルギーを完治させる可能性がある唯一の治療法で、完治の確率は約50%と言われている。
東京などの皮膚科専門医で行い、およそ6~9か月程度、数回の麻酔と注射治療が必要。
海外からの輸入薬のため高額で、アナフィラキシーショックなど重大な副作用の可能性がある。

新しい減感作療法
ZENOAQから発売された「アレルミューンHDM」という新薬を用います。
この薬は、アトピー性皮膚炎の犬の約50%で原因物質として検出される、ハウスダストの抗原を特殊処理した薬品です。
ごく薄い液から注射し、だんだん濃くしていくことで抗原を身体に慣れさせ、免疫反応を起こしにくくさせる治療です。
またハウスダスト抗原のごく一部を用いることと、特殊なタンパク質と結合させることで、従来の減感作療法の副作用であったアナフィラキシーショックの可能性が低く、より安全な薬といえます。
さらに治療期間が5~6週間と短期間で済むのも特長です。
治療成績は(まだ現場でのデータが少ないですが)臨床試験では投与後1か月時点で約75%に症状の改善があり、そのうちの67%、つまり全体の約半数では1年後も治癒状態を維持しているとのことです。

治療の流れ
①感染症の制御:細菌、真菌、ノミ・ダニなど外部寄生虫の駆除を行います。

②除去食試験:食物アレルギーを起こしにくい食事に変更し、2~3ヵ月間経過を観察します。ここまでは上記の対症療法を併用します。

③血液検査:「Der f 2」および「Der p 2」というハウスダストに対して抗体があるかの血液検査をします。陽性であればアレルミューンによる減感作療法が可能です。

④減感作療法:アレルミューンHDMを低濃度のものから週に1回、皮下に注射していきます。通常5~6回注射します。

費用
①、②は状況により大きく違いますが、1~5万円程度、
③以降は約7万円程度の予定です。

新薬のため不安定要素が多いながらも、比較的低価格で麻酔不要、治療期間も短めと、
特にステロイドを手放せないワンちゃん達には福音となる可能性のある治療法です。
詳しくは当院獣医師にお尋ねください。